膵臓は、消化酵素を分泌し、食物の吸収を助けています。それらの酵素は、ある条件下で活性化され、十二指腸で、その機能を発揮します。
膵臓に炎症が起こることを、膵炎といい、軽微な症状から、重篤な状態に陥る場合まで、その程度は様々です。高脂血症や体重超過のわんちゃんで、リスクが高いと言われていますが、発症には様々な原因や誘引が関連しているようです。
通常は、食欲不振、腹痛、嘔吐や下痢など、他の消化器の病気と同じような症状がみられます。しかし、体内では、炎症に伴って活性化した消化酵素が、膵臓そのものや、周囲の組織にダメージを与えています。その炎症の影響が、全身に及ぶと、ショック状態など、命に関わる重篤な状況に陥る場合もあります。
膵炎の際には、吐き気や下痢を抑えながら、消化器に負担をかけない食事を与え、炎症が収まるのを待ちます。点滴の実施も効果的でしょう。もちろん、病状によっては、抗菌薬や消炎剤の投与の他、血圧の維持や、血栓の予防などを行う場合もあります。
最近になって、白血球の活動を抑えることで、膵炎の際に起こる、炎症反応を抑制できる製剤が、使用できるようになりました。非常に期待される製剤です。ただ、獣医療の現場における、効果判定や使用方法については、これから集積、評価されていかなければならないでしょう。
最近、膵炎と判断されるわんちゃんが増えています。その理由として、現代の食生活が関連している可能性もありますが、膵炎という病気の情報が、獣医師の中で周知されてきたこと、血液検査における、膵特異的リパーゼという項目が、膵炎の診断として提案されたこと、超音波検査における、機器の性能と、獣医師の技術が向上してきたこと、などが大きな理由でしょう。そのおかげで、食欲のムラや、たまに嘔吐や下痢をするわんちゃんの中に、慢性的な膵炎を患っている場合があることもわかってきました。しかし、膵炎の診断は、他の検査結果とともに、症状の推移を吟味したうえで、慎重に判断されなければなりません。
大切なのは特別なことではなく、日頃の食事の様子や排泄の状態を観察すること、水分を十分に取ること、食事やおやつの内容を検討すること、適正な体重に保つこと、などでしょう。確かに、前述した血液検査を利用することで、お家のわんちゃんのリスクを知るというのも、一つの考え方だと思います。