ホルモンは、身体機能を調節し、体内の状態を一定に保つように働いています。また、体内には様々な種類のホルモンが存在し、それらはお互いに影響し合っています。何らかの理由で、それらのバランスが不安定になり、病状が認められるようになることを、内分泌疾患と呼びます。甲状腺機能亢進症は、よく知られている、猫の内分泌疾患です。
甲状腺は、甲状腺ホルモンを作る組織で、首の気管にそって、左右に一つずつ存在しています。注意深く触っても、「これかなあ?」、というくらいの小ささです。甲状腺ホルモンは、全身のエネルギー代謝に深く関わっていて、新陳代謝を盛んにする手伝いしています。その結果、脳、心臓、胃腸などの働きを活性化します。
甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、様々な病状を示します。例えば、「よく食べるわりに、痩せていて、毛質が悪い。」、「食欲にムラがあり、吐きっぽい、下痢をしやすい。」、「興奮しやすく、呼吸が早い。」、「機嫌が悪く、怒りっぽい。」、「水をよく飲み、尿量も多い。」、などです。中年齢以降での発症がほとんどのため、ご家族からは、病気ではなく、年を取ってきたせいだ、と判断されることも少なくありません。甲状腺の腫瘍が原因で起きることが多いと考えられていますが、腫瘍そのものが命に関わるというより、過量のホルモンによって起こる続発症(特に心臓や血管への影響)の方が問題になることが多いでしょう。
この病気は、症状と甲状腺ホルモンの測定結果から診断されます。また、超音波検査や、必要性があればCT検査を追加します。甲状腺ホルモンは全身に影響を与えるため、また潜在的な疾患が治療の際に発症することがあるため、全身の各臓器(特に心臓、腎臓など)に対する評価も大切になります。ただ、結果として、確定的ではないが、甲状腺機能亢進症が疑われる、という場合にも多く遭遇します。つまり、ホルモンのアンバランスは存在すると思われるが、病気の診断を下せない、という猫ちゃんがいます。そのような場合は、継続的な検査も必要ですが、症状や全身臓器の評価に従って、必要な治療を行います。
治療は、甲状腺ホルモンを適度な量に調整することです。病変部位が明らかで、全身状態が可能であれば、甲状腺腫瘍の摘出手術が最良の方法と言われています。ただ、一般的には、内服薬の投与か、食事療法が選択されることが多いでしょう。しかし、内服薬が負担になる猫ちゃんや、食事療法が受け入れられない猫ちゃんも多く、また治療を受け入れられる猫ちゃんでも、ホルモンの量や症状が、なかなかコントロールできない場合があります。そのようなケースを含めて、甲状腺機能亢進症の治療の際には、続発症や併発症の管理や治療が重要です。