短頭種と呼ばれる犬種として、フレンチブル、パグ、キャバリア、ブルドッグ、などがあげられます。これらの犬種は、その特徴的な頭部の形状や構造から、特に鼻から気管までの部位に、呼吸時にかかる抵抗が増加しています。それに伴い、様々な症状を引き起こす状態を、短頭種気道症候群と言います。 もともと持っている気道の構造が原因になる場合と、それが引き金となり、経過を経て発生する病態(二次的な病態)が原因になる場合があります。 具体的な症状として、過度な呼吸音を伴い、呼吸の際に努力を要する姿が見られます。呼吸が苦しそう、活動性が低下する、体に熱がこもりやすい、舌の色が悪くなる、などの症状が、様々な程度で見られることもあります。これらの症状は、興奮や気温の上昇によって悪化します。 他に、吐き気や嘔吐、ヨダレなど、消化器の症状が見られる場合や、耳の症状が関連している場合もあります。
診断は、外貌、鼻の中、口の内、喉の観察によって行います。本院では、まず、関連組織の発達がほぼ終了した、生後半年を目安に、その症状、外貌の観察、X線検査やX線透視検査を用いて診断します。その際に、気管や気管支、消化器の異常が見つかる場合もあります。重症度については、症状をもとに考えます。ただ、口の中や喉の観察には、鎮静剤や麻酔薬を使用するため、その必要性を検討した上で、ご家族に提案します。頭部の形状や、鼻の中の観察(手術を含めて)を行うことも理想的ですが、その際には、麻酔薬だけでなく、内視鏡やCT、MRIなどの画像装置が必要になるため、専門性の高い病院へ紹介します。
本院では、鼻や喉の入口の構造を矯正し、気道の開通性を良くするための、手術を実施することができます。ただ、全ての部位に対し、完全な矯正はできないこと、日常生活に支障のないわんちゃんに対し、手術の必要性がはっきりしないこと、二次的な病態への進行抑制について、その効果が確実ではないこと、手術を行わなくても、寿命を全うできる場合も多いこと、などから、その実施は限られてきました。 近年、短頭種のわんちゃんを迎えるご家庭が増え、その認識や理解が深まったこともあり、以前より手術を希望されるご家族や、手術を勧める獣医師が増えてきたという印象があります。
二次的な病態が発症した場合、その多くは緊急性を有します。しかし、治療方針の決定に関しては、病態評価の限界、周術期リスクの高さ、手術の効果や成功率の曖昧さ、などが問題となります。治療は、なるべく早く行わなければならないものの、内科治療を行いながら、いろいろな場合を想定しつつ、ご家族と相談し、慎重に決定しなければなりません。