犬の緑内障
眼の中には、眼房水という液体が存在しています。その主な働きは、眼の各部位へ酸素や養分を運搬することや、老廃物を除去することです。また、眼球内の圧(眼圧)を保ち、眼球の形を保持する役割も担っています。(それには、硝子体という部位も関係しています。)眼房水の産生量と排出量が一定であることは、眼圧を保持するために重要なことです。様々な理由から、その排出量が減少すると、眼圧は上昇します。
犬の緑内障は、眼圧上昇が主な原因となり、視覚障害が進行していく病気です。緑内障には、原因疾患に伴って二次的に眼圧が上昇する場合と、もともと素因を持っているわんちゃんが発病してしまう場合があります。主な初期症状は、眼の充血、涙の増加、眼をしょぼしょぼさせる、眼をこするなどです。明らかな痛みを訴える場合も多いでしょう。もしも、高い眼圧のまま、時間が経過してしまうと、視覚を喪失してしまいます。そのため、緑内障と判断されたら、すぐに治療を開始する必要があります。ただ、初期症状は見逃しやすいこと、早期治療が功を奏するとは言いきれないこと、かかりつけ医での治療には限界があること、つまり予後が良くない場合も多いため、ご家族は、施設ごとの治療方針や、可能な治療法について、十分な説明を受けなければなりません。
緑内障のわんちゃんを診察する際、まずは全身状態の評価とともに、眼圧上昇がなぜ起きたのかを考えます。二次的な緑内障の場合には、原因疾患に対する治療も必要です。 かかりつけ医では、自院での治療がどの程度まで可能かどうかを判断し、説明します。原因が不明な場合や、かかりつけ医での治療に限界がある場合、特に外科治療が必要、もしくは希望される場合には、眼科専門医への受診について、ご家族と相談しなければなりません。ただ、専門医のほとんどは、予約制のため、直ちに受診が可能となるわけではありません。それまでは、かかりつけ医で眼圧をコントロールための努力が必要です。 一般的な治療は、眼圧降下作用のある点眼薬のうち、最も適したものを選択して、使用することです。眼圧降下作用の期待できる薬剤を注射することもあります。もちろん、原因疾患の治療、痛みの軽減、感染などの併発症に対する治療も行います。また、他方の眼に、発症リスクがあると判断されれば、予防的な点眼を行う場合もあります。すでに視覚を喪失し、回復の見込みがない場合は、眼球の形状を保持する方法を考えます。 本院では、専門医への受診を希望されない場合、点眼治療の継続か、眼球外側からのレーザー照射、シリコンボールの挿入を行います。実際には、点眼治療を行い、視覚よりも、眼球形状の維持に努めるケースの方が多いです。
視力低下や視覚喪失に伴い、わんちゃんは不安やイライラを訴えるかもしれません。ご家族の方は、わんちゃんになるべく快適な生活をさせてあげられるように、治療だけでなく、日常の接し方、生活環境の管理などについて、一緒に考えましょう。
現在では、獣医眼科専門医による努力の結果、眼圧や視覚の保持が可能となるわんちゃんも増えてきているようです。